新規事業開発と「マーケットイン/プロダクトアウト」
新規事業開発の現場では、「マーケットインじゃないとダメだよ」といった声が多く聞かれます。顧客起点でニーズを捉える「マーケットイン」型のアプローチは、確かに王道とされています。しかし一方で、自社の強みである技術を核に、新たな市場を切り拓いていく「プロダクトアウト」型の取り組みにも、独自の醍醐味が存在します。
特にオープンイノベーションを用いれば、競争優位性を持つ固有の技術を外部パートナーとの共創によって、新たな価値へと昇華させる可能性が広がります。今回は、そうした「プロダクトアウト」の新規事業を推進するための考え方と実践のヒントをご紹介します。
アンゾフの成長マトリクスと「マーケットイン/プロダクトアウト」
オープンイノベーションに取り組みたいものの、何から始めればよいか分からない。そんなときに役立つのが、「技術・サービス(製品)」と「顧客・市場(市場)」の2軸で整理する、アンゾフの成長マトリクスと呼ばれる4象限のフレームです。

① 既存製品 × 既存市場(左下)
今ある製品を、今の顧客により良く届ける方向性です。ここでは、サービスの改良やDXによる効率化など、競争力の強化が目的になります。
② 新規製品 × 既存市場(左上)
すでに持っている市場に対して、新しい製品やサービスの提供を目指す方向性。既存顧客との関係性を活かしながら、提供価値を広げていくことが目標となります。オープンイノベーションを活用する際には、新しい技術やサービスを持つパートナーの探索が主な活動となります。
③ 既存製品 × 新規市場(右下)
今ある製品や技術を用いて、新しい市場に挑戦していく方向性。既存資産を活かしながら、異なる業界や用途にチャレンジするアプローチです。オープンイノベーションを活用する際には、新たに参入したい市場に詳しいパートナーの探索が主な活動となります。
④ 新規製品 × 新規市場(右上)
製品も市場も新しい場所へ踏み出していく、ゼロからの事業開発に近い取り組みです。まずは、「何に取り組みたいのか」を明確にすることから始めます。
この4象限を参考に、新規事業の取り組むべき方向性を決めます。次に取り組むことが、顧客課題(ペイン)の理解を深めることです。想定顧客が「どこに困っているのか、どんな痛み(ペイン)を抱えているのか」を考えます。
このペインを考えていくプロセスにおいて、先ほどの4象限の①と②の領域は、既存市場であることから、すでに顧客課題(ペイン)の解像度が高いことが多いです。そのため、「マーケットイン」の発想で事業開発を進めやすい状況にあります。
一方で、③と④の領域は新しい市場への参入となるため、顧客課題がまだ仮説に過ぎず、「プロダクトアウト」の形で進めざるを得ないケースが多くなります。
ドラッカー 7つの機会と「マーケットイン/プロダクトアウト」
マーケットインとプロダクトアウト、それぞれの考え方をもう少し掘り下げてみましょう。ピーター・ドラッカーは、イノベーションの機会を捉えるための視点を、次のように整理しています。
① 予期せぬ出来事
② ギャップを探す
③ ニーズの発見
④ 産業構造の変化
⑤ 人口構造の変化
⑥ 認識の変化
⑦ 新しい知識の活用
①〜③は、すでに顧客側に課題(ペイン)が存在している状態です。企業はそのペインを解消する対応策を提供するだけで、成果につながる可能性があります。
④~⑥は、「これから起こりそうな変化」を前提とするため、ペインが生まれそうな状態です。やや不確実性がありますが、例えば人口構造の変化は予測が立てやすく、新たなペインを読み取りやすい領域でもあります。
⑦は、顧客のペインが存在せず、仮説のペインをもとに考えることになります。「新たな知識や技術が、どのようなペインに活かすことができるのか」を探っていく動きになります。
つまり、①に近いほど顧客課題が明確であるため、「マーケットイン」の考え方が取り入れやすいと言えます。一方、⑦に近づくほど顧客課題が不明確になり、「プロダクトアウト」のアプローチが求められると整理できます。

こうして考えると、顧客課題を把握できている「マーケットイン」の方が、新規事業の成功確率が高いため、「マーケットインじゃないとダメだよ」という声が多いのも納得できます。しかし、だからといって、「プロダクトアウト」に取り組む価値はないのでしょうか。決して、そんなことはないはずです。
「プロダクトアウト」の重要性
企業は無数に存在しており、同じ市場環境に置かれていても、うまくいく企業とそうでない企業があります。その勝敗を分ける違いは何なのでしょうか。ある学派では「自社の経営資源を有効活用できるところが勝っているのではないか」という見方を示しています。コア・コンピタンスと呼ばれるような、持続的な競争優位性を持つ企業こそが、激しい競争環境に晒されても、成果を上げ続けることができるという考え方です。
今回のテーマである「プロダクトアウト」型で新規事業開発を進める狙いは、まさにこの点にあります。つまり、持続的に競争優位を保てる技術を選び、それを出発点として新規事業を構築していくことによって、競争が激しい中においても勝ち続けることができる、強い企業を育てることができるのです。
ここで、「ビジネスモデルキャンバス」というフレームワークを紹介します。右側では「顧客セグメント」「顧客との関係」「チャネル」など、市場でのポジショニングに関わる要素を整理できます。一方、左側では、自社の「リソース」をどう活用するかというケイパビリティの視点を扱います。ポジショニングとケイパビリティの両面を同時に整理できる点が、このフレームの大きな特徴です。

ここまでの内容を整理すると、「マーケットイン」は顧客ニーズを起点とするため、市場への適応力や事業化までのスピードに強みがあります。ただし、その分競合も多く、激しい競争にさらされるリスクもあります。
一方で、「プロダクトアウト」は自社の技術を出発点とするアプローチです。顧客ニーズの検証が必要となるため、事業化までに時間やコストを要しますが、持続的な競争優位を築くという点では非常に有効な戦略といえます。
この「プロダクトアウト」の弱点は、オープンイノベーションの活用によって補うことが可能です。すでに顧客のペインを把握している外部のパートナーと連携することで、不確実性というハードルを乗り越えることができます。では、「プロダクトアウト」、つまり技術を出発点としたオープンイノベーションは、どのように進めていけばよいのでしょうか。
技術起点でのオープンイノベーションの進め方
保有技術を洗い出し、整理することからスタート
まずは、自社の保有技術を洗い出しましょう。すでにIPランドスケープ(※)、コア技術や技術戦略を進める中で、整理をしている企業も多いかもしれません。自社のサプライチェーン・バリューチェーンを見直すことで、見落としていた技術や強みが見えてくることもあります。こうした視点から、保有技術をピックアップしていきます。
※経営戦略や事業戦略を立てる際に、知的財産(IP)情報を分析し、その結果を経営層や事業責任者と共有することで、意思決定を支援する取り組みのこと
次に、保有技術の整理を行います。これは、どの技術に強みがあるのかを評価していく作業です。3C分析やVRIO分析などを行って、競争優位性のある自社技術を見極めていきます。
ターゲットとする自社技術が特定できれば、提供価値を想像します。その技術がどんな機能を生み出すのか、そして顧客にとってどのような価値を提供できるのかを考えていきます。これにより、新しい市場やニーズを探しにいく手がかりが見えてきます。

ここで鍵となるのが「提供価値」です。提供価値とは、顧客がその製品を選び、お金を払う理由のことを指します。なぜ他社ではなく自社の製品なのか――その背景には、顧客が抱える課題やニーズ(ペイン)が関係しています。
例えば、「Amazon」と「楽天市場」はどちらもECサイトですが、それぞれが提供している価値は少し異なります。利用している顧客層(顧客セグメント)にも違いが見られます。

「提供価値」を明確にするためには、複数人でブレインストーミングを行うのも効果的です。メンバーは自由にアイデアを出し合います。重複しても問題ありません。出たアイデアはポストイットに書いて貼り、似ているものをグループ分けし、それぞれにタイトルをつけて整理します。
最終的には、「どの市場の、どのような顧客が抱える、どのような課題(ペイン)を解決するために、何を提供するのか」を明確に整理しましょう。この段階でのペインはあくまで仮説にすぎないため、次のステップではその仮説検証を繰り返します。
ここからが、オープンイノベーションの出番です。自社内で想定顧客へのヒアリングとPoC(概念実証)を進めていくことも一手ですが、パートナー企業と共創でスピーディに進めていくことも有効な手段です。
オープンイノベーションを進める方法には、2つの選択肢があります。一つは、対象となる企業をリストアップし、パートナー候補に直接声をかけていく「ソーシング」型。もう一つが、自社の技術に関心を持つ企業や個人を広く募り、アイデアとともに応募してきた相手と、ヒアリングやPoC(概念実証)を進めていく「アクセラプログラム」型です。

技術起点でのオープンイノベーションの進め方をまとめると、以下のような流れになります。

オープンイノベーションの有用性
オープンイノベーションの大きな強みは二つあります。一つは、自社が持っていない技術や知見をスピーディーに手に入れられること。もう一つは、自分たちだけでは気づけないアイデア(ペイン)が見えてくることです。
オープンイノベーションを用いることで、事業開発のスピードを高めるだけでなく、より深く顧客ペインを把握することも可能になります。不確実性の高い新規事業に取り組むうえで、オープンイノベーションは非常に有効な手段。ぜひ積極的に活用してみることをお勧めします。
まとめ
以上を踏まえて、押さえておきたいポイントは以下の通りです。
(1)「マーケットイン」は顧客ニーズを起点としているため、市場への適応や事業化へのスピードに強みがあります。一方で、激しい競争にさらされるリスクも伴います。
(2)「プロダクトアウト」は自社技術を起点としており、顧客ニーズの検証が必要なため、事業化には時間とコストがかかります。ただし、持続的な競争優位を保つという点では、重要な戦略になります。
(3)「プロダクトアウト」の弱点であるスピードの遅さや顧客課題の不明瞭さは、オープンイノベーションで解決できる可能性があります。
(4)技術起点のオープンイノベーションは、「自社の保有技術の洗い出し」→「保有技術の整理」→「提供価値の想像」の後、自社内もしくはパートナーと共に仮説検証を繰り返す流れで進めることができます。
ぜひ、ここで紹介したポイントを参考にして、「マーケットイン」型の新規事業開発を始めてみてください。
この記事の監修者

米澤 航太郎
株式会社eiicon
Consulting事業本部
Incubation Sales/Consulting 1G
Consultant
化学メーカー等で研究開発、R&D企画、経営企画業務を経験。その後ディープテックベンチャーにて事業開発に従事。石油精製、石油化学、機能性材料、半導体関連材料、カーボンニュートラル等、幅広い領域で大企業、スタートアップの両面から新規事業開発に携わる。eiicon参画後、大手企業のオープンイノベーションの企画・実行支援に従事。
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