なぜ「やろう」と思っても、進まないのか?

新規事業が進まないのは、「やる気」や「戦略」が足りないからとは限りません。多くの場合、その進め方自体の構造が見えていないことが原因です。

例えば、マラソンでも、今どこを走っていて、ゴールまでどれくらいかが分からなければ、前へ進むのは難しくなります。新規事業も同様に、全体の構造が見えなければ、次に取るべき行動が判断できず、立ち止まってしまいがちです。

企業の中で新規事業を一歩前に進めるためには、まず「なぜ進まないのか」という課題を分解し、構造を整理することが重要です。ここでは、新規事業を妨げる代表的な「6つの壁」を紹介します。

<新規事業を停滞させる6つの壁>

■01|目標・方針の壁
「何に取り組めばいいのか」が定まらず、停滞してしまう状況が散見されます。上層部からの指示も曖昧で、現場からの自主的な提案や働きかけも十分ではないため、新規事業が前に進みません。

■02|上司・権限の壁
決裁権限の所在が曖昧であることや、意思決定プロセスの遅さも、新規事業の動きに影響します。必要な判断が迅速に下されず、新規事業開発のスピードが鈍化してしまうのです。

■03|評価制度の壁
新規事業は失敗のリスクが高く成果も示しにくいにも関わらず、既存事業と同じ評価制度で厳しく評価されることがあります。こうした状況が新規事業担当者の意欲を奪い、進展を妨げてしまいます。

■04|組織連携の壁
新規事業の推進においては、他部門との調整に多くの時間と労力が割かれることが少なくありません。部門ごとの意見の違いを調整し、合意を得るプロセスが複雑になることで、全体の進みが遅くなってしまいます。

■05|稟議・予算の壁
少額でも稟議を通すための手続きに時間がかかることは、大企業をはじめ多くの企業で見られます。企業全体の売上が大きくても、部門ごとの予算には権限や裁量の限界があり、資金確保の難しさが新規事業の前進を難しくしています。

■06|文化・空気の壁
社内で「失敗してもよい」という方針が共有されていても、いざ失敗が起こると雰囲気が悪くなり、挑戦しづらくなってしまいます。結果として、新たなチャレンジが躊躇われる状況になりがちです。

このような課題に対して、「権限をもっと持たせるべき」「新規事業を出島のように切り出し、個別に動ける体制にすべき」など、組織そのものを変えようという意見が出てきます。もちろん重要な視点ですが、制度や文化を変えるには時間がかかりますし、現場の担当者がすぐにできることではありません。では、どうすればいいのでしょうか。

鍵となるのは、「小さな実績」を少しずつ積み重ねていくことです。「小さな実績」とは、例えば、プロトタイプの完成や初期ユーザーの獲得など、小さくても目に見える成果を指します。そうした具体的なアウトプットを一つずつ積み上げていくことが、新規事業の停滞を打破する突破口になります。

“整ってから動く”をやめて、2割で始める考え方へ

新規事業を進めるときは、完璧に考え抜いてから動こうとすると前に進めません。大切なのは「試しながら考える」姿勢です。正解のない中で仮説を立てて検証していくため、取り組む側も評価する側も、この前提を理解しておく必要があります。

もちろん、市場性や成長性、収益性などの議論も大切ですが、最初の段階でそれを完璧に議論することは簡単ではありません。情報が不足していることから自信を持って提案できないという声もよく聞きます。また、完成度の高い企画でないと承認されないという空気があると、提案が出しづらいという事情も多くあるでしょう。

だからこそ、完璧を求めすぎるのではなく、一部だけでも「試してみる」という現実的な設計に切り替えることが大切です。では、「小さく試す」とは具体的にどういうことなのか、そのポイントは4つあります。

<「小さく試す」ための4つの視点>

(1)誰のために?(価値の仮説)
(2)社内で通るか?(許容の仮説)
(3)どこまでならやれるか?(実行の仮説)
(4)どう見えれば意味があるか?(成果の仮説)

この4つの仮説を考える際には、6つの要素で構成される『事業アイディア仮説検討シート』を活用すると整理しやすくなります。以下で各項目について簡単にご紹介します。

■事業アイディア名(アイディア概要/起案背景・想い)
まずは、事業アイディアの概要を簡単に書き出します。堅く考えすぎず、思いついたことを短くまとめるくらいで構いません。大切なのは、なぜそのアイディアを提案したいのか――起案の背景や想いを明確にすることです。

■なぜ、いま“あなたが”このテーマにこだわるのか?
次に、なぜ、今このテーマに取り組むのか、その背景を明確にしておきましょう。旬を逃すと、どれだけ優れたアイディアでも価値を失ってしまう可能性があります。鮮度を意識した提案を行うことが大切です。

■誰のために?(価値の仮説)
対象とするユーザーや顧客層、そしてその人たちが抱えている課題や日々の行動、発言内容などを具体的に捉えながら整理をします。

■社内で通るか?(許容の仮説)
上司や関係部署が気にしそうなポイントをあらかじめ書き出します。もし、新規事業開発部門の管理職であれば、自身の視点や判断基準をメンバーに共有しておくことで、メンバーも提案がしやすくなるでしょう。

■どこまでならやれるか?(実行の仮説)
どの程度の規模で、どれくらいの期間をかけて取り組むのか、あらかじめスコープを設定します。他部署の協力を得られるか、外部パートナーを巻き込めそうか――そうした点もあわせて検討しておくとよいでしょう。

■どう見えれば意味があるか?(成果の仮説)
成果は売上や利益といった数字だけではなく、多様な視点で捉えます。例えば、仮説検証の段階では、顧客の反応や事業部内の変化、新しい顧客層との接点なども、意味のある成果といえます。こうした売上に直結しない指標も含めて、どのような変化を検証するかをあらかじめ整理しておくと、最初の一歩が踏み出しやすくなります。

仮説を”動かしながら整える”ための30日設計とは?

「価値の仮説」「許容の仮説」「実行の仮説」「成果の仮説」を整理する中で、自社単独ではリソースが不足している部分がある場合には、オープンイノベーションの活用を検討するのが有効です。

例えば、卸売業や研究開発部門などで顧客との直接的な接点が少ないといった事情がある場合は、そうした部分を外部の力で補うという発想が可能性を広げることになります。

では、事業アイディアを30日で設計するには、どのようなロードマップを描けばよいのでしょうか。目安として、次のようなスケジュールで進めることが可能です。

■1週目|違和感を言葉にする
まずは、日々の業務や現場で感じる違和感や気づきを言葉にします。「なぜ気になるのか」「どこに引っかかりがあるのか」を掘り下げることで、アイディアの原型となるテーマや視点が見えてきます。

■2週目|自社の強みと共創の余白を可視化
自社の強みや特性を棚卸し、「どこで価値を出せるか」「どう関わるのが効果的か」を検討します。加えて、理想の社外あるいは社内のパートナー像を想像し、可能性を広げます。

■3週目:実験ライン(仮説)を描く
短期間で実施できる実証実験を設計し、成果の仮説を整理します。「何が確認できれば次のステップに進むか」を一つ決めてみましょう。

■4週目:共創相手に声をかける&社内提案の準備
社外および社内の共創パートナー候補に対して、まずは軽く声をかけて動き出しの足場を作ります。並行して、社内での理解と協力を得るための提案資料や説明の準備をしっかりと整えていきます。

このように、最初は小さな違和感から始めて、実証実験の進め方や動き方をしっかり整えるステップを作ることが、今回の30日設計の最大のポイントです。

“成果を描く視点”と”社内が動く構造”を両立させるには?

次に、社内でアイディアを承認してもらいやすくするための「伝え方」の工夫について紹介します。伝えるときに大切なのは、「ストーリー性」と「構造性」の2つの視点をバランスよく盛り込むことです。

■ストーリー性とは?
「なぜこの事業に取り組むのか」「なぜ今なのか」「なぜ自分が取り組むのか」といった、“想い”にまつわる要素です。感情に働きかけるこの視点は、決裁者の共感や応援を引き出すうえで欠かせません。

■構造性とは?
「どのように進めるのか」「実現可能性はあるか」「具体的な行動計画があるか」といった、事業として成立させるための論理的な要素です。仕組みや計画をきちんと説明することで、信頼や納得を得やすくなります。

このように、相手の感情に訴えかける「ストーリー性」と、理屈で説得する「構造性」の両方を意識した伝え方が、社内で承認を得るには効果的です。

最後に紹介するのは、アイディアが事業として成り立つかどうかを見極めるためのチェックリストです。ただし、使うタイミングには注意が必要です。会社の雰囲気や部署の方針にあわせて、適切な段階で活用しましょう。あまりにも早い段階で使用すると評価が厳しくなり、可能性のあるアイディアまで淘汰されてしまうおそれがあります。

まとめ

以上を踏まえて、押さえておきたいポイントは以下の通りです。

(1) 新規事業の停滞は、「目標・方針」「上司・権限」「評価制度」「組織連携」「稟議・予算」「文化・空気」といった6つの壁によって生じます。

(2) 新規事業を前進させるには、プロトタイプの完成や初期ユーザーの獲得など、「小さな実績」を積み重ねていくことが重要です。

(3) 完璧な事業計画にこだわりすぎると動き出せなくなるため、まずは「小さく試す」ことを前提に、現実的な設計から始めます。

(4) 「小さく試す」ためには、「価値の仮説」「許容の仮説」「実行の仮説」「成果の仮説」の4つの視点から検討・整理していきます。

(5) 4つの視点を盛り込んだ事業アイディア仮説をドキュメント化します。その中で、自社に不足するリソースがあれば、オープンイノベーションも検討します。

(6) 提案がまとまったら、「ストーリー性」と「構造性」の両面を意識し、社内承認を得るための伝え方を工夫します。

(7) 事業アイディアがビジネスとして成立するかを見極めるため、適切なタイミングで「市場性」「拡張性」「収益性」「社会的意義」なども確認します。

ぜひ、ここで挙げた内容をヒントに、新規事業の第一歩を踏み出していただければと思います。

この記事の監修者

下薗 徹
株式会社eiicon
インキュベーションクオリティ室(IQ室) Quality of Open Innovation officer (QOO)

メーカー系IT企業、コンサルティングファームを経て、ベンチャー系上場企業の経理財務部にて海外子会社管理、連結決算、開示業務を経験。その後、CVC部門の新規立ち上げに関わり、ベンチャー出資、オープンイノベーション、新規事業開発支援の責任者として従事。経営企画部、社長室にてIR対応、事業戦略立案等を歴任した後に自身の会社を創業し独立。現在は、eiiconのQuality of Open Innovation Officerとしてスタートアップ企業の事業開発支援をはじめ、複数社でのオープンイノベーション創出支援、地方自治体での地域イノベーションエコシステムの創出に深く関わる。

https://corp.eiicon.net/members/shimozono

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